大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(ソ)29号 決定 1966年7月05日

抗告人 西島清蔵

相手方 小林すて

主文

原決定を取消す。

相手方の担保取消の申立を却下する。

申立費用および抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一、抗告人は、主文第一、二項と同旨の裁判を求めるものであるが、その抗告の理由として主張するところの要旨は、

相手方は、その申立により係属した中野簡易裁判所昭和三九年(ノ)第四一号民事一般調停事件において、かねて抗告人の申立にかかる東京地方裁判所昭和三八年(ケ)第七四八号不動産競売事件についての競売手続の停止を申立て、同裁判所の命ずるところに従つて金一〇万円の但保をたてたうえ、昭和三九年三月七日付で、同裁判所より、右調停事件終了にいたるまでの間前記競売手続を停止する旨の決定を得たのであるが、右調停事件が昭和四〇年四月一四日調停不成立により終了したところから、同年八月九日、前記金一〇万円の担保についての権利行使の催告を抗告人に対してしたうえで、担保の取消をされたい旨の申立をした。この申立に基づいて、中野簡易裁判所は、同年八月一二日付の書面をもつて、抗告人に対しその到達の日から一四日以内に担保権の行使をすべきことを催告し、この催告はその頃抗告人に到達した。抗告人は、同月二七日受付の書面をもつて、同裁判所に対し、抗告人の申立にかかる競売手続はなお競落までにいたらないのであるから、相手方の得た前記決定によつて競売手続が停止されたことにもとづいて抗告人の蒙る損害の算定ができないので、坦保の取消をなし得る限りでない旨上申した。しかるに、同裁判所は、抗告人が右催告に応じて権利の行使をしなかつたことにより担保取消について同意したものとみなすべきものとして、同年九月六日担保取消決定をした。しかしながら、この決定は失当であるから、その取消を求める。

というにある。

二、中野簡易裁判所が本件担保取消決定をするにいたつたまでの経過が抗告人主張のとおりであることは、記録によつて明らかである。

ところで、民事調停事件の係属する裁判所が当事者の申立によつて、調停の終了するまで調停の目的となつた権利に関するいわゆる任意競売手続の停止を命ずるについて、当事者に提供させた担保に関し、裁判所が民事調停規則第六条第四項によつて準用される民事訴訟法第一一五条第三項に定める手続を経て取消の決定をなし得るためには、担保権利者がその担保につき権利を行使するについて、もはやそれ以上の損害の発生する可能性がなく、かつ、既に生じた損害もこれを算定し得べき状態に達しているにもかかわらず、担保権利者において裁判所の催告に応じてその権利を行使しない場合であることを要すると解すべきである。

本件においては、相手方の申立により中野簡易裁判所の発した決定に基づいて停止されていた東京地方裁判所昭和三八年(ケ)第七四八号不動産競売事件における競売手続は、原決定当時においてはもとより現在においてもいまだ完結するにいたつていないことが当裁判所に明らかである。してみると、抗告人としては、かかる段階においては、右競売手続の停止によつて蒙るべき損害の有無およびもし損害があるとしてもその額を明らかにして担保権行使の手続をとるに由ない状態であるものといわざるを得ないのであるから、本件においてはいまだ、抗告人が中野簡易裁判所の催告に応じなかつたことを理由として担保取消の決定をすべきものではないと解すべきである。

さすれば、中野簡易裁判所が昭和四〇年九月六日にした担保取消決定は失当であるからこれを取消し、相手方の担保取消の申立を理由がないものとして却下することとし、手続費用の負担について民事訴訟法第九六条および第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 桑原正憲 長井澄 守屋克彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例